天然醸造の淡口醤油にこだわる醸造元
明治12年(1879年)創業の末廣醤油は、醤油の一大産地である兵庫県龍野で、
天然醸造の淡口醤油を主軸につくる蔵元です。これは、全国でもとても珍しいこと。
醤油は発酵や熟成が進むほど赤味が増すので、
温度管理がしやすいタンクで仕込むほうが、淡い色を出しやすいのです。
醤油の原料である大豆と小麦を、麹菌をはじめとする微生物の力のみで
発酵・熟成させるのが本醸造。天然醸造というのは、
そのうち醸造を促進させる酵素や食品添加物を使用しないものを指します。
ですから、四季の温度変化のなかで天然醸造にこだわって淡口醤油をつくるのは、
とても難しいことなのです。
機械で管理したほうが淡い色が出しやすいのに、なぜ天然醸造にこだわるのか。
その理由は、末廣醤油が自然食品の販売に携わる人たちと歩んできたことにあります。
末廣卓也社長はこう話します。
「自然食品を販売する人から、昭和40年頃に国産丸大豆や小麦を持ち込まれ、
添加物が入っていない醤油をつくってほしいと依頼がありました。
その約10年後に、全国的に醤油の仕込みを共同化させようという動きになったのですが、
共同工場では自然食品を求めるお客様の要望に沿う醤油がつくれなかったので、
うちで仕込みをし続けたのです」
こうして、末廣醤油は国産丸大豆と小麦を使い、
添加物も入れない天然醸造の醤油に特化した蔵元になったのでした。
天然醸造の蔵になくてはならない存在が、工場長の木村俊一さん。
微生物の世界を探求し続ける木村さんは
「醤油のつくり方は複雑だから面白いんです。
『醤油は放っておいたらできる』と言う人もいます。
たしかにみりんやお酢みたいに、何工程も踏むわけじゃない。
桶に材料を入れ、数か月後に絞る。それだけかもしれません。
でも、単純な工程のなかで、菌が複雑に働きあって、もろみを変化させています。
だから人が変化を見極めながら適切に手を入れる。
その頃合いが職人技なのです」と話します。
木村俊一工場長(左)と末廣卓也社長(右)。
天然醸造の淡口醤油にこだわる末廣醤油の代表的商品が「淡紫(うすむらさき)」。
「僕はいまは何にでも『淡紫』をかけているんです。
特に好きなのはローストビーフにかけること。
定番の卵かけご飯にかけても、卵の味がよくわかるようになりますよ」と末廣社長。
添加物や機械に頼らず、国産の原料と熟練の技で最高の醤油をつくり続けています。