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「木次(きすき)乳業」の創業者である佐藤忠吉さんは、
名刺の肩書きを「百姓」で通し、酪農を核とした有機農業に
いまもこだわり続けています。百姓とは、百の作物をつくる人。
米や野菜はもとより、微生物学や栄養学、気象学にも精通し、
土づくりに始まって炭焼き、牛飼い、養蚕、大工など、
つまりは生きることにまつわるすべてをこなす人間です。

佐藤さんが農作業をするかたわら、自立した農業を目指して
奥出雲の地で酪農を始めたのは、昭和30年代のことでした。
時代はまさに、日本が農業型の国から都市型国家へ変わろうとしていた頃。
そして養蚕や炭焼きに代わる新しい産業を興そうと、
牛乳の原料生産から加工処理までを手がけて、「木次牛乳」という名で販売を始めます。
当時は農業にも近代化・効率化の波が押し寄せ、
農薬や化学肥料が重宝されるようになっていました。
しかし牛が次々と原因不明の病気になったのをきっかけに従来の農法を見直し、
やがて有機農法の草分け的存在に。

こうして行き着いた酪農の理想は、放牧によって牛が自由に採食できること。
きれいな空気と水のあるところで太陽をいっぱいに浴びて、
のびのびと育った牛からは、質の高い生乳が生まれます。
斐伊川に潤わされ、土に恵まれている奥出雲は、まさに酪農にとって理想の地。
木次乳業の原料乳は、この斐伊川流域に点在する酪農家から集められています。

現在、木次乳業が目指しているのは、小規模多品目複合経営。
酪農と乳業だけでなく、農家と加工営農を含めたネットワークをつくり、
地域に根づいた多面的な生産をすることが次なる目標。
時代に合った百姓のかたちを、創業時からいまも変わらず模索し続けています。