いわき発、木工のプロがつくる新しい神棚のかたち
細かい彫りと木目が美しいこちらのプロダクトは、
神社のお札が入るようにデザインされた神棚「かみだな」。
デザインは、mizmiz designの水野憲司さんが手がけ、
福島県いわき市の木工集団「もこのこ」がかたちにしました。
「しろ」だと高さ28センチ、「むく」は高さ32センチと、
どちらもとてもコンパクトなんです。
このかみだなをプロデュースしたのは、大平宏之さんと祐子さん夫妻。
夫妻は、福島県いわき市で100年以上続く老舗の正木屋材木店を営む一方で、
木工集団「もこのこ」を束ね、
いわき市から、木工で何か発信できることはないかと模索しています。
「きっかけとなったのは、仮設住宅に住む方から、
手軽な神棚はつくれないかと相談されたことです。
確かに、最近の新築住宅で神棚をつくるところは少ないですし、
それなら、今のライフスタイルにも合うような、
新しいスタイルの神棚をつくれないかなと思ったんです」(祐子さん)
ちなみに、お神札を家の中で祀る風習が一般に広まったのは、
伊勢信仰が流行った江戸中期。
伊勢参りできない人が祀るようになったとも言われています。
以来、広く使われている神棚は、
伊勢神宮に代表される建築様式を模した「宮形」にお神札を祀るものです。
水野さんは、デザインのコンセプトを3つのポイントに絞りました。
まず、お神札を祀るという用途はコンパクトにまとめ、シンプルなデザインに。
ふたつ目は、伊勢神宮のシルエットを刻印として残すこと。
3つ目は、木、本来の素材感。
「日本には、古くから“木に神が宿る”というような考え方があります。
木の素材感をいかしたかたちにすることで、
木がもっている神聖な雰囲気を保てないかと考えました」
もこのこは、個人や木工所など10数名で構成され、
毎回のミーティングには、仕事状況に合わせて、みんながフレキシブルに参加。
基本的には、ミーティングで制作の方向性を決め、
各々が得意とする技術をいかしながら実制作の担当を決めていきます。
ヒノキのひとつひとつの性質を見極めながら、
乾燥の方法や加工など、もこのこのメンバーは相談しながら試作を重ねました。
そして完成した、ミニマムなデザインのかみだなは、
各メディアでも取り上げられ、日本インテリアデザイナー協会
による「JID賞」も受賞するなど、
高い評価を受けるプロダクトとなりました。
「東日本大震災が起こり、福島では、原発事故が起こりました。
でも、いわきも福島もなくなったわけじゃなくて、普通に生きて、
頑張ってやってるんですよ! というものづくりを発信したかった。
世界で、ものづくりが認められるような団体になりたいですね。
いろんなエキスパートが集まることによって、
新しいものが生まれていくような、
もこのこに育っていければいいかなと思っています」(祐子さん)