日々の技術向上が、新しい伝統をつくる
大正8年創業の株式会社京屋染物店。
90年以上に渡り、岩手県一関市に店と工房を構えています。
岩手県の伝統芸能“虎舞”ではおる半纏(はんてん)、
地元の旅館や庭職人のオリジナル半纏、
さらには浴衣や法被、のぼり旗、のれんなども手がけ、
地元で根づいてきた文化や慣習を、一緒に盛り上げてきました。
近年では、スポーツ用品などさらに製品の幅を広げ、
さまざまなオリジナル製品の染色と縫製を手がけています。

引き染めの様子。職人が刷毛を使い、1色ずつ描いていきます。
京屋染物店の染色技法、染料や染める素材などの種類が多岐に渡ります。
これは、全国的に見ても珍しい染物屋なんだそうです。
染めの方法だけでも、
「浸染(しんぜん)」「引染(ひきぞめ)」「手捺染(てなっせん)」の3種類。
職人たちは、素材、デザインによって、適切な方法を選んでいきます。
実は、そのように多ジャンルに対応できるようになったのも、
お客さまのオーダーからなんだそう。
「お客さまの喜ぶ笑顔が見たい」という強い想いから、
それまで経験値のないオーダーが来たとしても職人一同研究し、
可能な限り染め続けてきました。
「“京屋ではこの染物技法しかできません、ここまでしかできません”
とお断りすることがなかった、それが当店のルールみたいなものでして(苦笑)。
気がつけば、たくさんの技術を持つ染物屋になれました。
こだわりを持ったお客様の声にお応えした結果が
今の京屋染物店につながっているのです」
と代表取締役の蜂谷悠介さんは話します。

「張手(はって)」という道具を反物の両端につけているところです。この道具を使って反物を両端で引っぱり生地を張り上げて反物に染色したり、乾かしたりします。
とは言え、染物の色合いというのは、非常に繊細。
耳かき一杯分の染料で色合いが大きく変わり、
染める素材によって生地の裏への浸透具合も変わります。
例えば、性質の異なる生地を同じ「紺色」に染めても、
木綿のような厚い素材に染める時と、
ポリエステルや絹などの薄い素材に染める時とでは、
染料、技法の違いのほか、気遣い、工夫が異なります。
さらに、冬場と夏場の異なる温度によって
染めた後の生地の乾き方にも違いが生じるのです。
技術向上、丁寧な仕上げのためには、
職人同士のコミュニケーションを大切にしています。

「手捺染」の様子。スキージというヘラを使って一枚一枚手染めで仕上げます。
近年では、培った伝統技術を生かすような試みにも挑戦し、
マフラーや手ぬぐいなど京屋オリジナルアイテムを制作。
これまでになかったニット素材を伝統技法で染めるなど、
日々職人たちが研究を続けているんだそうです。
「伝統とは、良いものをつくり上げたいという思いの連鎖だと思うんです。
現在、伝統と称されるものは、きっと当時はすごく革新的だったこと。
だから“昔からこうやってきたからこうあるべきだ、こういうものだ”
と言われるものをそのまま継承し、後世に寸分違わず伝えることではなく、
受け継いだ私たちがまた新しい技術に挑戦し、
新たな“伝統”をつくり上げていくことが大切なんだと思うんです」
と蜂谷さん。京屋染物店はこれからも、新たな“伝統”を紡ぐため、
日々京屋の挑戦は続いていきます。

「水元」と言われる工程。染め上がった反物を何度も洗い、しっかりと余分な染料を洗い落とすことで、風合いの良い手拭に。