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温暖な土地に暮らす人と、雪国に暮らす人の抱く雪のイメージには、
大きな隔たりがあると思います。雪国の人にとって、
降り積もる雪はときに安全な暮らしをおびやかす存在にもなります。
一方で彼らには、雪と共生し、暮らしに役立ててきた伝統的な知恵があります。
そのひとつが、雪を利用した天然の貯蔵庫「雪室(ゆきむろ)」です。
長い冬の間に降り積もった雪を室内に敷きつめることで、
一年中溶けることのない天然の冷蔵庫をつくり、食品保蔵に活用してきたのです。
その歴史は古く、明治時代の文献には、新潟県内に約60か所の雪室が存在し、
鮮魚店や酒造などの食品保存に使用されたり、
雪を販売するビジネスがあったという記述が残っています。
豪雪地帯が32町村、特別豪雪地帯が18町村もある新潟県には、
現在も雪室が約40か所点在しています。

雪室は単なる冷蔵庫ではなく、さまざまなメリットがあることも見逃せません。
雪室の雪は、当然ながら時間とともにだんだん溶けていくものの、
真夏でも真冬でも内部の温度は一定しています。
一般的な電気冷蔵庫は、室内の温度やつめ込み具合などによって、
平均温度を保つためのサーモスタットが起動して、
10度から-1度の間でゆらぎを起こします。
そこで生じる温度差によって食品の細胞が傷みやすくなり、
おいしさの維持に影響が出てしまうのです。
これに対して雪室は、温度だけでなく湿度も90%以上に保たれるため、
うるおいのある空間で食品を保存して、鮮度を維持することが可能になっています。

さらに電気の振動や光の影響などのストレスが少ない状態で熟成を行うと、
食材によってはプラスの変化がもたらされます。
たとえば野菜や米などの穀物は、寒さで凍らないように身を守るため、
個体内のタンパク質が糖分に変化して甘みが増します。
お酒は雑味がとれて味がまろやかになるため、雪中貯蔵という熟成方法があるほどです。
もちろん自然リサイクルエネルギーの面でも、雪室はすばらしい効果を発揮していて、
50年ほど前に電気冷蔵庫の発展によってすたれかけたものの、
エコ意識の高まる現在、大きく見直されつつあります。

「越後雪室屋」はこうした雪室を活用して、新潟の食のおいしさと、
見直すべき古の知恵を広く発信するために立ち上げられたブランドです。
米や味噌、そばなどといった地元の伝統的な食材のみならず、
南国産のコーヒーを雪室で熟成させるなど、
新たな食文化の創出にも意欲的に取り組んでいます。