縫製も裁断も、ひと手間を惜しまない
「第一被服」の仕事
鎌倉・由比ヶ浜に本店を構える、JAMES & COのブランド、
「STUDIO ORIBE(スタジオ オリベ)」の商品をつくっているのは、
埼玉県草加市の住宅地に静かに佇む、縫製工場「第一被服」。
80年以上、スラックスを専門に手がけてきました。
検反、裁断、地縫い、カン縫い、千鳥、カンヌキなどの、
パンツづくりに必要な60ほどある工程を
特殊なミシンを使いながらすべてここでこなしています。
職人たちは、この道50年のベテランばかり。
裁断を担当するのは、三男の鈴木国夫さん(75歳)。
縫い場を担当するのは、次男・庸夫さん(77歳)と、
奥さまの勝子さん、息子の弘久さん、従姉妹の見木恵子さん。
夕方にはアルバイトとしてお孫さんもやって来ます。
家族が営む、小さな小さな工場なのです。

ミシンをかける庸夫さん。1着、1着、糸の調子を見ながら作業をすすめていく。
「もともと親父が始めて、戦後に兄弟みんなで受け継いだ。
でも最初は、問屋から返品されてばかりだよ(笑)。
どこが悪かったのか、どうしたらいいものがつくれるかって、
兄弟で話し合ってさ。そのうち、俺たちがつくったものが、
三越やなんかのデパートでも扱われるようになっていったんだよ」と国夫さん。
ときには、朝3時から工場を動かすこともあったといいます。
地道に、真面目に、より良いものを。
いつしか良質なスラックスを生み出せるようになっていました。

「私は器用ではないんですけどね」と微笑む奥さまの勝子さん。さすが庸夫さんとの息はぴったり。
その後、庸夫さんの息子・輝永さんがアパレルブランドを立ち上げるから、
手伝ってほしいという話が持ち上がりました。
それが、STUDIO ORIBEでした。
STUDIO ORIBEは、塩谷雅芳さん、鈴木輝永さんが
1999年に立ち上げたデイリーウエアブランド。
立ち上げ当初からデザイン性と履き心地に定評のある、
「L-ポケットパンツ」は、「SHIPS」をはじめ、
全国70店舗以上で扱われおり、着実にファンが増えています。
もともと、メーカーで生産管理の仕事をしていた輝永さん。
「たくさんの縫製工場を見て、おやじの仕事の丁寧さが改めてわかりましたね。
ステッチひとつをとっても、途中で切れたら、全部ほどいて縫い直す。
そんな当たり前のことをしてくれる工場は少ないんです」

L-ポケットパンツの型紙と完成品。タグには、STUDIO ORIBEからのメッセージが刻まれている。
採算を考えれば、作業時間を減らすほうがいいけれど、
品質には、絶対に手を抜かないのが、第一被服の仕事。
「ひと手間を惜しまない。だから、上がってくるものはもちろんきれい。
職人として、信頼できるんですよね」と輝永さんは話します。
次から次へと新しい服が溢れていく世の中で、定番を作り続けていく。
その潔い信念を実現させるのは、誠実な仕事を続けてきた職人たちなのです。
決して特殊な技術を使っているわけではなく、
丁寧に、そしてキレイに仕上げること。
そんなものづくりの原点が一枚のパンツに宿っています。

(左下から時計まわりに)庸夫さん、国夫さん、弘久さん、見木恵子さん、勝子さん。